【5分でOB/OG訪問】今も進化を続ける「銀行」の基礎知識
- 銀行の「本当の仕事」は、お金を貸すことじゃない?
皆さん、もし仲のいい友だちが「本気でカフェを開きたいんだ!☕」って相談してきたらどうしますか?
事業計画書もバッチリ。「初期費用が500万円かかるんだけど、自己資金は100万円しかない。だから、残りの400万円を貸してほしい!」と。
どうでしょう? たとえ親友でも、400万円をポンと貸すのって、かなり勇気がいりますよね。もしカフェが失敗したら、お金も友情も失うかも……😱 ヤですよね!
でも、銀行は違います。
まったく見ず知らずの相手(もちろん審査はありますが)に、「事業計画書」一枚で、時には数千万、数億円というお金を貸してくれます(=融資)。
なんでそんなことができるんでしょう? 貸したお金が返ってこなかったら、銀行だって大損です。
実は、銀行の仕事の「キモ」は、「お金を貸すこと」そのものじゃありません。
「この人(会社)に貸したお金は、本当に返ってくるか?」「このカフェは本当に成功するか?」
これを見極めること、すなわち「審査」こそが、彼らの本当の仕事なんです。
- 銀行の「はじまり」:なぜ銀行は生まれたのか?
では、この「銀行」という仕組み、どうやって生まれたんでしょうか?
昔々、中世ヨーロッパ(今のイタリアあたり)の商人たちは、悩んでいました。「商売で儲けた金貨、どこに置いとこう……」と。家に置けば泥棒が怖い(タンス預金のリスクですね)。
そこで彼らは、頑丈な金庫を持つ「金細工師(イギリス)」や「両替商(イタリア)」に、「保管料」を払って金貨を預かってもらうことにしました。これが「預金」のはじまりです。
ちなみに、この時両替商が使っていた「長机」のことをイタリア語で「Banca(バンカ)」と言いました。これが「銀行(Bank)」の語源になったと言われています。
さて、金庫番たちはある日、天才的なことに気づきます。
「預金者たちが、全員同時に金貨を引き出しに来ることなんて、まず無いな」「金庫の中の金貨、ほとんど眠ってない?」
一方で、世の中には「新しいビジネスを始めたいけど、お金が足りない!」という人もいます。
金庫番たちは、預かっている「眠っている金貨」を、その人たちに貸し付け、「利息」をもらうビジネスを思いつきました。これが「融資」のはじまりです。
この仕組み、すごくないですか?
「お金が余っている人(預金者)」と「お金を必要としている人(事業者)」が結びつき、社会全体で新しいビジネス(=富)がどんどん生まれるようになったんです。これこそが、銀行が「社会の役に立っている」ことの根幹なんですね。
この仕組みは、明治時代の日本にも取り入れられました。
かの有名な渋沢栄一が、アメリカの仕組み(National Bank)を参考に、日本初の銀行「第一国立銀行(いまのみずほ銀行)」を設立します。(※国立とありますが、国の法律に基づいて作られた「民間」銀行です)
渋沢栄一はこんな言葉を残しています。
「信用は実に資本であって、商売繁盛の基礎である」
単にお金を右から左へ動かすのではなく、「信用」を元手にして、日本の新しい産業を育てていく。銀行にはそんな使命が託されたのです。
- 銀行の「3大ビジネス」:銀行はどうやって儲けている?
銀行の仕事は、お医者さんや弁護士さんと同じで、「銀行法」という法律で厳密にやることが決まっています。これを「固有業務」といい、大きく3つあります。
①「預金」業務
これは皆さんおなじみ、私たちからお金を預かる仕事です。銀行にとっては「いつか返さないといけないお金」なので、会計上は「負債」になります。
②「融資」業務
銀行の「審査」をクリアした人や会社(主に会社)に、お金を貸し出す仕事。
銀行は、私たち預金者には金利(例えば0.01%)を払い、お金を借りる会社からは金利(例えば1.0%)をもらいます。この金利の差(0.99%)を「利ざや」と呼び、これが銀行の最大の利益源です。
③「為替」業務
これは「振込」や「送金」、公共料金の「口座振替」のことです。
「A銀行のaさん口座」から「B銀行のbさん口座」へ、お金を安全に「移す」処理をしてくれます。この時にかかる「振込手数料」なども銀行の利益になります。
(補足:ひとくちに銀行と言っても色々ある!)
せっかくなので、銀行の種類も知っておきましょう。
メガバンク:全国・海外に拠点を持ち、トヨタや三菱商事のような超大企業や海外との取引に強い銀行。(例:三菱UFJ、三井住友、みずほ)
地方銀行(地銀):各都道府県に根ざし、地元の「○○製作所」といった中小企業や個人のお客さんを大切にする銀行。(例:横浜銀行、千葉銀行、静岡銀行など)
信託銀行:お金だけでなく、ビルや土地(不動産)、株券(有価証券)といった「資産」の管理や運用(=信託)も行うプロ集団。
ネット銀行:あえて店舗を持たず、スマホやPCですべて完結させる銀行。人件費や家賃がかからない分、手数料が安かったり預金金利が高かったりするのが武器。(例:楽天銀行、PayPay銀行)
- 銀行の「イマ」と「ミライ」:「オワコン」は本当か?
さて、ここまでの話を聞くと「銀行ってスゴイ!」となりますが、一方で「銀行はオワコン(終わったコンテンツ)」なんて声も聞いたことありませんか?
これは、銀行が今、すごい「逆風」にさらされているからです。
① 超低金利
日本銀行の政策で、もう20年以上「金利がほぼゼロ」の状態が続いています。銀行最大の利益源だった「利ざや(貸出金利と預金金利の差)」が、ほとんど稼げなくなってしまいました。
② FinTech(フィンテック)の台頭
IT技術を使った新しい金融サービスです。皆さんも「送金」だけなら、PayPayやLINE Payの方が早くて便利ですよね? 「融資」だって、ネットで個人からお金を集める「クラウドファンディング」のような競合が出てきました。
③ 人口減少
シンプルに、お金を借りてくれる企業や個人(特に住宅ローン)が、日本国内では減っていきます。
じゃあ、銀行は本当に「オワコン」なんでしょうか?
そんなことはありません。銀行は今、「大変貌」を遂げている真っ最中なんです。
かつての銀行員の仕事は、言われた通りに「早く、正確に」事務処理(振込、入金、出金)をすることでした。でも、そんな仕事はもうATMやスマホアプリがやってくれます。
これからの銀行員は、単にお金を貸す(=融資)だけでは勝てません。
「お金(と情報)」を武器に、顧客のあらゆる課題を解決する「コンサルタント」になっています。
例えば、取引先の中小企業の社長にこんな提案をします。
「社長、そろそろ海外(ベトナム)に進出しませんか?現地の優良な工場を紹介しますよ」
「後継者がいないと伺いました。ウチの別のお取引先で、御社の技術を欲しがっている良い会社を探しましょうか?(M&Aや事業承継)」
個人の皆さんに対しても同じです。
「退職金が2,000万円入るんですね。どう運用しますか?」
「お子さんの教育資金、NISA(ニーサ)で今のうちから準備しませんか?」(投資信託や保険の販売)
結論です。
銀行は「お金を貸す会社」から、「お金と情報を武器に、顧客のあらゆる課題を解決するコンサルティング会社」へと変貌しています。
だから、決して「オワコン」ではないんです。むしろ、ものすごい変化の真っ只中にある、面白い業界なんですよ。
- 求められる人物像:銀行が欲しがるのは、こんな人!
では、そんな銀行が欲しがるのはどんな人でしょう?
ここで、銀行の語源になった「Banca(机)」に関する、ちょっと怖いトリビアを。
信用を失って金儲けができなくなった両替商は、商売道具である「机(Banca)」を壊されてしまいました。
これが「破産(Bankruptcy=バンク・ラプシー)」の語源(Banca Rotta=壊れた机)になったと言われています。銀行の仕事は、それほど「信用」が命なんです。
この「信用」について、伝説的なアメリカの銀行家 J.P.モルガンが議会で問われた有名な言葉があります。
「銀行家が融資をする、最大の担保(=返済の保証)は何か?」
彼はこう答えました。
「第一に、人格(Character)だ。金でも財産でもない」
銀行が求める「信用」できる人物像とは、具体的にこういう人です。
①「誠実さ」と「規律」
銀行は、他人様の大切なお金(しかもケタ違いの金額)を扱います。1円のミスも許されませんし、ルール(法令)を絶対に守る「コンプライアンス意識」が何よりも求められます。
②「勉強家」であること
セクション4で見たように、銀行員は今やコンサルタントです。社長さんの課題を解決するには、金融知識はもちろん、法律、税金、IT、顧客の業界トレンドなど、膨大な知識が(残念ながら)「死ぬまで」必要です。新しいことを学ぶのが好きな人に向いています。
③「聞き出す力」と「見抜く力」
これはコンサルタントとして、そして銀行員として最も重要なスキルです。
聞き出す力:社長が口には出さないけれど、本当に悩んでいること(「実は後継者がいないんだ…」とか)を引き出すコミュニケーション能力。
見抜く力:冒頭のカフェの例です。「この事業計画、ちょっと甘くないか?」「この人は本当にやり切れる人か?」を冷静に見抜く「審査」の目。
「人が好き」な優しさと、「ダメなものはダメ」と言える厳しさ。この両方を持っている人が、銀行では最強なんですね。
- まとめ:「信用」を「未来」に変える仕事
お疲れ様でした。最後にまとめです。
銀行の仕事は、社会全体にお金を循環させる、まさに「血液」のような役割を担っています。
AIやFinTechの登場で、かつての「事務作業」は激減しました。
これからの銀行員の仕事は、専門知識と何より「信用」を武器に、企業の社長や個人の皆さんが抱える課題を解決する「コンサルタント」がメインになります。
「他人のために本気になれる」
「数字に強く、勉強熱心」
「そして何より、ウソをつかない誠実な人」
こんな人に向いている、社会の根幹を支える仕事です。
トヨタが「出禁」だった銀行
有名な話として、トヨタグループ(豊田自動織機)は戦後復興期、住友銀行(当時)に融資を申し込んだ際、「織物屋(機屋)ごときに、これ以上貸せるか」と融資を断られた、という逸話があります(通称「機屋追い出し」事件)。 これを深く恨んだトヨタは、長らく住友銀行とは主要な取引をしなかったと言われています。現在は合併を経て三井住友銀行となり、トヨタとも良好な関係を築いています。
ソフトバンク、アーム買収の「3.3兆円」融資
(世界最高額かは諸説ありますが、邦銀最大級として)孫正義氏が2016年にイギリスの半導体企業「ARM」を買収した際、みずほ銀行が中心となり、邦銀史上最大級となる約3.3兆円もの協調融資(複数の銀行が協力して貸す)をアレンジしました。銀行の「審査」と「実行力」がなければ、この歴史的買収は不可能でした。
なぜ儲かっているか?
アームは自社で半導体(チップ)を作るのではなく、その「設計図(アーキテクチャ)」をライセンスとして世界中の企業(Apple、Samsung、Qualcommなど)に提供しています。
世界中のほぼ全てのスマートフォン(99%以上と言われます)や、タブレット、その他多くの家電にアームの技術が使われており、製品が売れるたびにライセンス料(ロイヤリティ)が入ってくる、非常に強力なビジネスモデルを持っています。
最近の業績
直近の決算(2025年3月期など)でも、AIブームの追い風もあり、売上・利益ともに前年を大幅に上回る好調な業績を発表しています。(例:2025年3月期の純利益は約7.9億ドル=約1,180億円 ※1ドル150円換算)
あの3.3兆円の融資は、銀行にとって「この会社なら将来必ず利益を生む」という「審査」が的中した、歴史的な大成功案件と言えますね。
日本初のATMは「印鑑」で認証していた
日本で初めてオンラインの現金自動支払機(ATMの前身)が導入されたのは1969年、三井銀行(当時)銀座支店です。驚くべきことに、当初は暗証番号がなく、キャッシュカードと一緒に「実物の印鑑」を機械にセットし、カメラで照合するという方式でした。
